EVAR/TEVAR大動脈低侵襲手術
近年、心臓大血管手術はより身体的な負担の少ない方法(低侵襲手術)へと進化しています。
EVAR・TEVARは、開胸・開腹を行わない大動脈瘤に対する低侵襲手術です。
大動脈瘤とは?
大動脈とは心臓から直接出てお腹へその下で両側の足に分かれるまでの全身に血液を送り出す動脈の本幹を指します。
横隔膜を境に上側を胸部大動脈、下側を腹部大動脈といい、正常径は、胸部大動脈で30㎜、腹部大動脈で20㎜です。(図1)
大動脈瘤とは、様々な原因により大動脈径が正常の1.5倍以上に拡張したものを言います。(図2)
大動脈瘤は、拡張しても自覚症状に乏しく、
発見しづらい病気です。
そして、前兆もなく破裂し死に至ります。
一旦破裂すると、救命することは難しく、
現在の医療をもってしても9割弱の方が
救命不可能です。
その為、動脈瘤の治療は、破裂する前に
破裂を予防することが重要です。
大動脈瘤の治療適応
- 1:大動脈径が胸部大動脈瘤で55㎜以上、腹部大動脈瘤で50㎜以上の症例
- 2:大動脈瘤の形状がよくない症例(嚢状動脈瘤等)
- 3:大動脈径の急速拡大症例(半年で5㎜以上)
EVAR・TEVARとは?
大動脈瘤は、一度拡張してしまうと元の大きさに戻ることはありません。治療適応になると外科的手術が考慮されます。
外科的治療には、以前から開胸・開腹による人工血管置換術が行われてきました。
しかし、高齢や併存疾患・体力的に開胸・開腹による手術のリスクが高く困難であることもあります。
EVAR・TEVARは、開胸・開腹を行わない大動脈瘤に対する低侵襲手術です。
EVAR・TEVARの適応疾患
- ・腹部大動脈瘤
- ・下行大動脈瘤
- ・遠位弓部大動脈瘤
- ・大動脈解離(解離性大動脈瘤)
EVAR:腹部大動脈ステントグラフト内挿術(EndoVascular Aneurysm Repair) / TEVAR:胸部大動脈ステントグラフト内挿術(Thoracic EndoVascular Aortic Repair)
図3:ステントグラフト(左:胸部用、右:腹部用)
図4: A:EVAR前B:EVAR後
C:TEVAR前D:TEVAR後
手術は、基本的には全身麻酔で行います。(呼吸機能等が悪く全身麻酔が困難な場合は局所麻酔で施行)。
手術時間の目安は、EVARで1~2時間、TEVARで30分~1時間程度です。
足の付け根の創部は、約3cm程度で、EVARで両側、TEVARで片側になります。
2021年より止血デバイスが保険認可され、症例により5㎜程度の傷で手術が可能になり、より小さい傷で手術を行っております。
EVAR・TEVARの
メリット・デメリット
- メリット
- EVAR・TEVAR手術の最大のメリットは、患者様の負担の少なさです。
いままでの開胸・開腹による手術のリスクが高く手術が難しいと言われ、なにも治療ができなかった患者様に対しても安全に手術ができ、術前と遜色ない体力で退院できることです。
また、創部も小さいため術後の疼痛も少なく、早期から通常の日常生活に戻ることが可能です。
- デメリット
- EVAR・TEVAR手術のデメリットは、大動脈の形状(解剖学的理由)により手術ができないことがあることです。
また、大動脈瘤が体内には残ることになりますので、定期的な検査が必要であり、場合により追加治療が必要になる可能性があります。
EVAR・TEVARの治療拡大
当院では、EVAR・TEVAR手術に関して様々な工夫を行い、より患者様の負担の少なく合併症の少ない手術を行っております。
図5:内腸骨動脈を温存(矢印)したEVAR
EVAR(腹部大動脈ステントグラフト)にて、内腸骨動脈を温存することにより、
術後の殿筋跛行(歩行時の臀部の痛み)を防ぐ方法も行っております。(図5)
図6:頸部分枝へのバイパスを同時施行したTEVAR
通常ではTEVARの適応にならない頭部への動脈を
巻き込んだ大動脈瘤に対して、開胸せずに人工血管によるバイパス手術を同時に行うTEVARも施行しております。
(図6)
図7:広範囲大動脈瘤に対する人工血管置換術と
TEVARのハイブリッド手術
広範囲の胸腹部大動脈瘤に対しては、通常は広範囲の人工血管置換術が行われておりますが、
患者様の手術侵襲が大きく、術後の合併症(主に足が動かなくなる対麻痺)の発生頻度も高いため、TEVARと人工血管置換術を組み合わせたハイブリッド手術を行い、手術の低侵襲化と合併症を減らず努力を行っております。
(図7)
入院から退院まで
入院から退院までのスケジュール
当院の実績
当院では、2012年より外科が開設され、年々手術の数は増加傾向にあります。
胸部大動脈疾患・腹部大動脈疾患に関して、北海道で屈指の手術件数を行っております。
当院では、患者様の状態に合わせて根治的な人工血管置換術と低侵襲のEVAR・TEVARの
どちらかが適しているかを考慮して手術術式を決定しております。
また、通常ではEVAR・TEVARが困難な症例に対しても様々な工夫を行うことにより
できる限り手術ができない患者様がいなくなるように努力をしております。